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さすらいエマノン [青春/自分探し]


さすらいエマノン(リュウコミックス)

さすらいエマノン(リュウコミックス)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2012/04/03
  • メディア: コミック


旅をするのは さすらい続けるのは 私の本能 自分の内部からの行動なの
さすらい続けていることは宿命なんだと思う


私は名なしのエマノン
名前なんてただの記号だし 私にとっては意味がないから…
私は生まれついたときすでに母の記憶を持っていた
母の記憶も祖母の記憶ももっと前の先祖の記憶も…
もっと前の人間でなかった頃の記憶まで持っていた
30億年の間子孫から子孫へ身体を乗り換えながら生きてきたというわけ
なぜかわからないけどそういうふうに生まれついている…
30億歳になっても泣いたり笑ったり恋をすることもあったり…
でもみんな去ってしまう みんな私だけを残して過ぎ去っていってしまう…
変わらないのはこの海と空だけ…
(さすらいエマノン'67 第一話冒頭より)

COMICリュウにて連載。全1巻。
原作:梶尾真治さん 作画:鶴田謙二さんによるSFジュブナイル小説・エマノンシリーズのコミカライズ版になります。
30億年―
次々と世代を替えながら地球に生命が誕生してからの記憶を連綿と持ち続け、さすらい続ける「エマノン」(no name を逆さに読んだもの)という女性が、様々な時代、場所で出会う人や動物、生命とのふれあいを描く物語。以前こちらでも前作となる「おもいでエマノン」をご紹介しました。寡作ながら高い表現力を持つ描き手として知られる鶴田謙二さんによる、待望の続編が刊行されました。
今回の単行本は2本の作品―「さすらいエマノン」と、時系列的には少し前のお話になる「さすらいエマノン'67」―が収録されていて、はじめの「さすらいエマノン」に関してはEpisode1と称して2年ほど前にムック本の体裁で刊行されています。私はそちらは拝見していないのですが、内容は大幅に加筆修正されているとのこと。作画を担当した鶴田さんは、「この作品の絵は、他の人に渡したくなかった」と仰るくらいに並々ならぬ思い入れがあるそうで、その気合のほどが伺える画でした。
それではご紹介してまいりましょう

エマノンは冒頭のお話どおり、地球に誕生した原初の生命から現代まで、子々孫々に渡ってその記憶を引継ぎ生き続けている存在です。人間の女性の姿をしており、身体が子を生むとその記憶は新たに生まれた子供に引き継がれ、母親となったかつてのエマノンは記憶を失う…そうして世代交代を繰り返しながら延々と各地を放浪し続ける存在なのです。
なぜ自分は記憶を失うこと無く存在し続けるのか、それにどのような意味があるのか―?
自分でも答えが分からないまま、彼女はさまよい続けます。擬似的な不死の存在であるエマノンは、それゆえに人と話していてもそれを通してかつての記憶を思い起こしているような、どこか遠くを見るような表情をのぞかせる女性なのです。

舞台は1967年あたりの日本。
'67といえば昭和42年ということになります。私は原作未読ではあるのですが、シリーズには日本以外が舞台になることもありますし、今より未来の日本にエマノンが現れることもありますので、鶴田さんによるコミカライズが前作と引き続いてこの昭和40年代を描いているのは鶴田さんの意向によるものなのではないでしょうか。なんともノスタルジックで美しい山林の原風景や、放置され朽ち果てた電車の車両、錆の浮いた町の商店の看板やトタンの貼られた木造の家屋など、どこもかしこも懐かしく、時のうつろい、うら寂しい感覚を呼び起こす風景があちこちに描かれます。鶴田さんは少し前に刊行した「冒険エレキテ島」もそうなんですけど、この辺のノスタルジックなちょいと寂れた町とか田舎とかすごい叙情的な画を描かれるんですよ。時の流れが旅で出会った友人や、愛しい人ですら押し流していき、「変わらないのはこの海と空だけ…」と独りごちる、孤独を抱えたエマノンの心の内を想像させるのです。

正直なところお話としては前作の「おもいでエマノン」が、それ単独できちっと説明が成されていて「その後」までを含め完結していたのに比べ、今回の物語は何人かエマノンとは別種の「特異な能力」を持った人物が出てくるのですが、それが匂わす程度にしか説明されておらず、読後にもやっとした謎が残る微妙な気分にさせられるお話になっていて、原作小説を読んでいない人(私もですが(^_^;))にはすっきりしない感じがどうしても残ってしまいます。しかしそれでも鶴田さんの描く昭和40年代の風景や、たばこをゆっくりとくゆらせながら遠くにぼんやりと視線を送るエマノンの姿、その画がたまらなく私の心を持っていくのです。

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1話目の「さすらいエマノン」は、とある山間の寂れた町に「探しもの」をしに訪れたエマノンが、町のことで度々もめる大人たちに憂慮する少年と山で出会うお話。ストーリーを説明するだけならあっと驚くようなお話ではないのですが、60数ページに渡ってフルカラーで収録されていることで、私が感じたような鶴田さんの表現力を感じることができるのではないかと思います。個人的には漆原友紀さんの「蟲師」に似た感覚と言えるかもしれません。
物語の最後に本編から数年後の「その後」を描くお話の作り方も。

そして物語という意味ではモノクロになりますが後半の「さすらいエマノン'67」が興味深い。
こちらは太古の時代から記憶を継承し続ける「エマノン」という存在の謎に迫ったような内容で、エマノンが3歳の頃に生き別れた「双子の兄」に会いに行くお話です。
本来「エマノン」が成す子供は必ず女児で一人のみであるはずなのに、なぜか男児も生まれていた…。男児の方には「エマノン」としての記憶は引き継がれていなかったため、母親から記憶を引き継いだ3歳児のエマノンは兄を孤児院に預けていたのです。ここでの回想で特異なエマノンの代替わりが描かれるのですが、生まれた子供に記憶を引継いだ後のかつてのエマノンだった女性の姿がなんとも衝撃的。「おもいでエマノン」で最後に描かれた母親は普通に見えたんだけどなあ…(^_^;)
そして人との出会いや別れに淡白なエマノンが「会いたい」と思い、珍しく感情的になった姿が描かれる双子の兄との会話が何とも切ない…時の流れの感覚が違いすぎるエマノンの特異性や、陳腐な物言いですが彼女の抱える悲哀といったものを感じさせるやり取りが描かれます。
この話を読んでから再び前半のフルカラーの「さすらいエマノン」を読み返すと、そこでエマノンが無言で視線を送ったものや何気ないセリフなどが色々繋がって、ちょっと面白い仕掛けになってますよ。
そうなるとエマノンがどこを見るでもなくぼんやりとタバコの煙をくゆらせるコマだとか、投げられた言葉に1コマおいて答える姿などの一コマ一コマがどれも何かを想像させる叙情的な雰囲気を纏うようになっていきます。

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フルカラーページもあるので価格的にはちょいとお高めですが、噛めば噛むほど味わい深い作品だと思いますのでお勧めですよ。ただし先程も挙げたとおりお話としては謎な部分も残ってもやっとするところもあるので、「おもいでエマノン」をご覧になっていなければそちらを先にどうぞ。


梶尾真治さんのblog → カジシンエッセイ
高橋酒造さんのwebページ内に設けられたご本人のblogです

【既刊感想】
おもいでエマノン


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コメント 4

大林 森

鶴田さんの絵柄が大好きです。(>_<)尊敬してますー!
by 大林 森 (2012-04-05 04:19) 

meriesan

私も大好きですー!(>ω<)ノシ
そしてコメントありがとうございます!
by meriesan (2012-04-05 05:09) 

inuneko

ムックも買ってしまいましたが、レビューを拝見してやはり買わねば、と。
by inuneko (2012-04-05 05:16) 

meriesan

あーうー私はムック本に手を出してしまいそうです。
それ以上に今回のコミカライズに該当する原作のほうも読みたし…!
いや、魅力的なマンガですね。
by meriesan (2012-04-05 05:25) 

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